今回はアンリアレイジについて。
コンセプチュアルでアヴァンギャルドなブランド、というイメージの方が多いかもしれませんがより深く知っていくと、その哲学的なアプローチは他のブランドにはない唯一無二なものだとわかります。
1シーズンにひとつ掲げるテーマに対して向き合い、どうアプローチしてファッションに落とし込むのか。
それをどのようにして着飾るファッションから日常のファッションへ昇華させるのか。
そうして伝えたいことはなんなのか。
個人的にすごくおもしろいコラムになっていると思います。
それでは見ていきましょう。
ANREALAGE(アンリアレイジ)と哲学
堅いタイトルですがわかりやすくかみくだいていきましょう。
アンリアレイジにおいて「テーマ」はもっとも重要なものです。
テーマは「光」「かたち」「力」など抽象的なことばが多く、服たちはそのテーマにそったデザインとなります。
そしてそのテーマができる背景には世の中の常識に対する疑問や皮肉、主張といった明確なマインドがあります。
いくつか例をあげてみましょう。
2010年春夏コレクションの「SILHOUETTE」はシルエットを見て想像したアイテムと実際のアイテムが異なる、というアプローチ。
表面だけを見てすべてを理解したつもりになることへのアンチテーゼにも感じます。
2018年春夏コレクションの「POWER」は「もし力が見えたら」という想像を形にしていたり。
(展示"A LIGHT UN LIGHT"にて撮影しました)
2019年春夏コレクション「DETAIL」は服のある一部分がそのまま洋服になっていたり。
普段の生活の中での人間と洋服の関わり方ではたどり着くことのない哲学性を秘めています。
他のモードブランドでも、たとえば「光」をテーマにしたコレクションなどはありますがそれは「光からインスパイアを受けましたよ」という意味でのテーマであって主役はあくまで「服」です。
アンリアレイジの場合は「光」と、それにまつわる哲学が主軸にあります。
なによりすごいのが、そのテーマがデザインの力で直感的につたわるということ。
これが本当にすごい。
これはデザインに落とし込むセンスとコレクションショーでの見せ方の巧さの賜物だと思います。
なぜこのクオリティのテーマとインスタレーション方法、(そしてもちろん服のデザインもですが)を半年で「コレクション」という一つのショーにまで作り込めているのか…
かつてのギャルソンが、マルジェラがそうだったように我々に服をとおして新しいものの見方、考え方を提示してくれるブランドというのは本当に稀有です。
「かたち」について
アンリアレイジでは多くのシーズンのテーマとして「かたち」について考えています。
人間ではないものに服を合わせるというアプローチや、平面と着たときで別のアイテムになるというアプローチは服というものを再定義するきっかけを与えてくれます。
そして、なによりもそれらを「作品」ではなく「日常着」にまで昇華させているところがアンリアレイジを唯一無二たらしめているのだと思います。
日常で着られる衣服は、公的あるいは暗黙のルールやマナー、さらには美意識などの規範から自由ではない。
服づくりにおいて彼/女らが対峙しているのはこの日常である。
それゆえ、彼/女らがつくる洋服は断じて純粋芸術を志向するものではない。視線の先にあるのは現実の社会であり、日常において洋服を着る人たちである。
(アンリアレイジHPより抜粋)
ルールやマナーや美意識に縛られないものをつくる!これだけだとファッションではなくアートになってしまいます。
アンリアレイジがすごいのはその固定概念を打ちこわし、そしてもう一度それを街に「なじませる」ところまで作り込んでいるから。
これは見かけだけ、主張だけのファッションではなし得ないことです。
では、いくつかコレクションに触れながら「かたち」との関わり方を見ていきましょう。
2009S/SCOLLECTION ○△□
「図形に服を着せたら」
球体、四角錐、立方体が服を着たら、というのが出発点。
それを最終的には人間が着ても違和感のない、独特のドレープが効いた服にまで落とし込んでいます。
2009-10A/WCOLLECTION 凹凸
「凸凹に服を着せたら」
図形という意味では○△□に近いテーマ。
ですが、これは「ものを違う角度から見たら想像していたかたちと違うことがある」という解釈を孕んでいます。
真正面から見たときには普通のアイテムに見えますが実は前面に凹凸が飛び出しているデザイン。
人間の身体でないものに合わせるというアプローチは残しつつも、さらに進化したテーマ性が見られたシーズンだと思います。
2010S/SCOLLECTION SILHOUETTE
「シルエットと実物の対比」
シルエットはパンツ、実際はワンピース。
シルエットはセーター、実際はパンツ。
輪郭だけで判断することの危うさを服をとおして訴えかけているように感じます。
2010-11A/WCOLLECTION WIDESHORTSLIMLONG
「引き伸ばす」
引き伸ばしたマネキンに合わせてかたちづくる。
WIDE SHORTは横に長くSLIM LONGは縦に長くなり、通常サイズのわれわれが着たときには別のシルエットを作り出します。
2011S/SCOLLECTION 空気の形
「空気に合わせる」
空気が入っているときだけ本来のかたちが作られるつくり。
抜くと身体にドレープとなってまとわりつくという、着地点は凸凹などと同じなのですが「かたちのないものにかたちを合わせる」というアプローチがすばらしすぎます。
2014S/SCOLLECTION SIZE
「ノーサイズ」
そしてたどり着く、サイズの概念をなくすという考え方。
靴にも使われたりするワイヤーで巻き取れるダイヤルを用いてサイズの概念がない服をリリース。
逆説的なアプローチがすごく好きです。
手仕事とANREALAGE(アンリアレイジ)
パッチワーク
アンリアレイジの初期のものづくりにはパッチワークなどの手仕事がよく見られます。
アンリアレイジのパッチワークは普通の「上から縫いつける」パッチワークではなく「小さなパーツで一枚の布に仕上げる」パッチワークです。
デザイナー森永氏の幼馴染である真木氏が手がけていたようですが、これは気の遠くなるような作業でしょう。
後述しますがANSEAZONという定番ラインでもこのパッチワークはシーズンを超えてリリースされています。
パッチワーク以外にも手仕事によるアプローチがされたシーズンがあります。
2008年春夏コレクションの「ノーモア」ではジャケットすべてを覆うようにボタンを縫いつけたあと、それらをすべて外しています。
途方もない時間をかけてつけて、それをまた途方もない時間をかけて取り除く…
その結果生地にボタンの縫い糸が残り、ネップにも見える痕跡としてジャケット全体を覆うことになります。
moreとlessを手仕事で表現している、個人的にも大好きなデザインです。
手仕事と聞くとアルチザン的、職人的なものを想像しますがアンリアレイジの手仕事はあくまでテーマへのアプローチのための手法のひとつと捉えています。
柔軟さとこだわりのバランスの良さ、これがアンリアレイジの魅力でしょう。
テクノロジーとANREALAGE(アンリアレイジ)
アンリアレイジは2011年秋冬コレクションあたりからテクノロジーを服に落としこみ、テーマを表現する方法に挑戦します。
使われたテクノロジーは普段どれも洋服には使われることのないものばかり。
先ほどまでは「手仕事×哲学」でしたが、ここからは「テクノロジー×哲学」となります。
フォトクロミック(「COLOR」2013AW)
フォトクロミックは光に当てると色が変化し、また元に戻るという性質を持っています。
本来は光ディスクなどの記憶媒体に用いられる化合物ですが洋服の素材として用いることで「COLOR」というテーマへの新しいアプローチを可能にしました。
アウトラスト®︎(「SEASON」 2014AW)
アウトラスト®︎は自ら温度を調節する素材です。
繊維の中にある20〜30ミクロンというとても小さいマイクロカプセルの中に入ったパラフィンワックスが温度調節を可能にしています。
暑いときは体からの余分な熱を吸収し、寒くなると蓄えていた熱を放出するというはたらきをしてくれる高機能素材ですが、これをテックウェアとしてではなく「SEASON」の境界線のない洋服をつくる、というアプローチの手段のひとつとして使っています。
メカノクロミック(「POWER」 2018SS)
力が加わると光る、という性質をもった素材です。応力発光体とも呼ばれます。
本来は建築の資材(ビルのコンクリートの柱など)に用いることで、建物の傾きによる柱への負荷を可視化するのに使われますが、これを洋服に用いることで人間が動くときにどこにどれだけの力が加わっているのかが見られるようになっています。
この素材は基本は粉なのでシート状にして布にしたのははじめてだったようです。
再帰性反射材(「REFLECT」2016SS)
入射した光を正確に光源の方向にはねかえす性質をもった素材。
スマホのフラッシュなどで照らしたときにだけ柄や色が現れます。
上の写真は私が実際にフラッシュで撮ったようす。
手仕事とテクノロジー。
これらがひとつのブランドの中に混在することは、普通に考えれば違和感のあることな気もします。
ポールハーデンは最新技術を使いませんし、アクロニウムはハンドステッチはしません。
この混在が違和感がないのは何よりも「哲学」があるからだと思います。
手仕事とテクノロジー。どちらもあくまで手段として用いています。
この考えが私はとても好きです。
「神は細部に宿る」
1シーズン1テーマでクリエイションを続けるアンリアレイジですが、一貫して変わらない考え方として「神は細部に宿る」という言葉があります。
かのミース・ファンデルローエが言った言葉ですが、アンリアレイジのクリエイションにはまさにこの言葉が反映されています。
ここからは様々なパーツに目を向けてみましょう。
ボタン
服を構成する上で必ず必要になってくるもの。ボタン。
ブランドのアイコニックなボタンを作っているところは多いですが、アンリアレイジの場合はシーズンによってそのテーマ性を踏襲したボタンを用意します。
いくつか見てみましょう。
2013年春夏「BONE」
「服に骨があったら」がテーマのシーズン。
パーツのボタンも骨組みで構成されています。
2012年秋冬「TIME」
経年をあらわす「時間の跡」が落とし込まれたデザイン。
2009年秋冬「凸凹」
これは直感的。
凸凹(でこぼこ)をボタンにも表現しています。
2010年秋冬「WIDE SHORT SLIM LONG」
横に引き伸ばしたようなデザイン。
ボタンまで引き伸ばされていることでテーマ性がより伝わりやすくなります。
これらのボタンの多くはPROUDさんというボタン資材を制作している会社に特注して作られているようです。
こちらから他のボタンも見ることができます。
タグ
アンリアレイジの「神は細部に宿る」という考え方はタグにもあらわれています。
いくつかご紹介しましょう。
2018年春夏「POWER」
四方向から力を加えられたタグ。
2017年秋冬「ROLL」
2015年春夏「SHADOW」
影ごと縫いつけられています。
よく見るとサイズタグにも影が。
2018年秋冬「PRISM」
2017年春夏「SILENCE」
2016年秋冬「NOISE」
アンリアレイジの文字を読みにくくするかのようなノイズ。
2019年秋冬「DETAIL」
最後はタグではありませんが、タグそのものをストールにしたデザイン。
このサイズタグがなければ「ロゴストール」なのにサイズタグがつくだけで「タグのストール」になるところが面白いです。
ロゴではなくサイズタグがタグを構成する上で必要な要素というか。
インビテーション(招待状)
ここまでは服のディテールとしてテーマを落とし込んでいるデザインを見てきましたがアンリアレイジはインビテーション(招待状)にもこだわっています。
ショーを見る前からシーズンのテーマ性がしっかりと印象に残る、伝わるようなすばらしい工夫です。
ここではいくつかご紹介します。
2011年春夏「AIR」
空気を入れることで内容がわかる。テーマを伝えるのがほんとうに上手です。
かたちのないものに焦点をあてたすばらしいデザインです。
2011年秋冬「LOW」
画像の画質が粗いのではなくこういう印刷のようです。
判子もピクセル化しています。
2012年春夏「SHELL」
おもちゃなどのパッケージの空箱が招待状。
封筒が入っていた痕跡だけが残ります。
外殻だけが残る、というSHELLのテーマにぴったりのデザインです。
2013年春夏「COLOR」
個人的にいちばん好きなインビテーションです。
鉛筆の外側がモノクロの世界のあか、あお、きいろに対応したグレースケールで色どられています。
色のもつ効果と脆さをたくみに表現しています。
好きすぎてがんばって探しあててゲットしました。
2014年春夏「SIZE」
小さい方の切手にも招待状の内容が記載されています。
2014年秋冬「SEASON」
目盛りのない温度計。
どの季節でも同じ温度で過ごす、という意味でしょうか。
これ以外にもアンリアレイジのサイトではシーズンごとのページにインビテーションが紹介されていますのでぜひご覧ください。
ANSEASON(アンシーズン)という考え方
さて、これまで見てきたアンリアレイジのテーマ、そしてそれにともなうアプローチの数々。
細部にまでこだわるディテールの数々をもってして、アンリアレイジは唯一無二のブランドとなりえています。
ただ、その作り込まれたテーマ性は1シーズンで消化してしまうには惜しい、本質的で普遍的なものばかり。
これら各シーズンのテーマを定番アイテムとしてリリースするラインとして2014年に誕生したのがANSEASON(アンシーズン)です。
2009年春夏「○△□」の球体パターンや、2011年秋冬「LOW」のピクセルを模したレーザーカットの襟、2013年秋冬「COLOR」の紫外線で色が変わる素材など、それぞれのテクニックを取り入れてバリエーションを展開しています。
ブランドのアイコンでもあるパッチワークはコンピュータジャガードという形でデザインの部分を記号化して定番ラインに落とし込んでいます。
ANSEAZONラインは他のブランドでいうディヒュージョンライン(低価格ライン)のはずなのですが、過去のテーマ性をきちんと盛り込んで展開しているためブランド価値を下げてしまうどころかアンリアレイジの理念を伝える大事な役割を担っています。
さらにシンプルなデザイン、手に入れやすい価格帯でリリースすることでアンリアレイジの伝えたい哲学の間口をこれ以上ないやり方で広めることができています。
ほんとうに尊敬しかありません。
Writer:Yusuke Omura
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