JAN-JAN VAN ESSCHE(ヤンヤンヴァンエシュ)は他のコンテンポラリーブランドと何が違うのか

2018.11.22

JAN-JAN VAN ESSCHEとは

JAN-JAN VAN ESSCHE(ヤンヤン ヴァン エシュ)はアントワープ王立芸術アカデミー出身のベルギー・アントワープのデザイナー。

 

最大の特徴は身体に優しい生地とパターンメイキングを駆使したコンテンポラリーなデザイン。

アルチザンと安易にひとくくりにしてしまうこともはばかれるようなジャンルレスなその世界観は日常着のもっとも上質なかたち、とも形容できるでしょう。

 

力強い鎧のような服ではなくあくまで「日常着」。

性別や文化のボーダーをなくした究極のガーメント。

 

ですがシンプル・ミニマルなデザインゆえ、他のコンテンポラリー(普遍的)なブランドと比べられることが多いのも事実。

一体どこが他のブランドたちと違うのでしょうか?

 

今回はそんなJAN-JAN VAN ESSCHEのこだわりがたくさん詰まったものづくりに迫ってみましょう。

 

なお、今回の記事を書くにあたって岩手のセレクトショップRizm Closetさまのブログを一部参考にさせていただきました。

そちらでもJAN-JAN VAN ESSCHEのものづくりの空気感を素敵な文章で綴られてあります。

ぜひ読んでみてください。

Rizm Closet

 

上品な「ルーズ」

JAN-JAN VAN ESSCHE(以下ヤンヤン)の特徴はそのゆったりとしたシルエット。

時代的にオーバーサイズやルーズシルエットが流行っている昨今ですが、ヤンヤンのルーズ感はそれらとは少し違った印象を受けます。

 

「ダボッ」としてはおらず、「ゆったり」。

下品なルーズさのない、スタイリッシュな緩さがあります。

 

その大きな要因としては肩のパターンメイキングが着物袖のようになっていること。

肩線がないアイテムが多いことが挙げられます。

肩にシームがないことによって布が肩に沿って乗っかるので「ワンサイズ上をダボっと着ている」感がなく、上品なルーズシルエットになっているように感じます。

日本の着物や袈裟なども、生地量は多くシルエットも大振りなのにも関わらずサイズ感が適切に見えるのは同じことがいえるでしょう。

 

また深いプリーツをとり、ただゆるいだけでなく動きにあわせたルーズさを作ったり、袖丈やパンツの裾丈を九分丈にしてルーズな中にも抜け感を作ったりと上品なシルエットに見えるように工夫されています。

ゆるっとしたシルエットですが、生地量でいえばシルエット以上の生地がとられています。

そのおかげで履いている感覚的にはもっとゆるいパンツを履いているようにリラックスして履くことができます。

 

シャツも着物袖でとられています。

着物袖になるだけでよりプレーンな印象になりますね。

 

脇下にはベンチレーションのような穴があいています。

これは身八つ口といって着物に用いられているディテールです。

男性物にはなく女性物と子供用のみにみられるディテールで、腕を動かしやすくするはたらきがあります。

 

女性物のディテールをユニセックスに落とし込む考え方や、サイズの概念を取り払った考え方、洋服に和装のエッセンスを加える考え方はすべてボーダーレスに基づいていて、これこそ本当の意味でのコンテンポラリー(普遍的)な服なんじゃないかと思います。

 

JAN-JAN VAN ESSCHEのプレゼンテーション

ヤンヤンの新作発表の形式として有名なのが「COLLECTION」、「PROJECT」の2種類の発表方法。

年に一度のコレクション発表と、コレクションごとの間に発表される「プロジェクト」で服づくりのアプローチ方法が異なります。

 

COLLECTION(コレクション)

コレクション発表。

ショー形式ではなくインスタレーション形式での発表ですね。

ヤンヤンでは主に春夏に「COLLECTION」として発表します。

シーズンテーマは毎シーズンさまざまですが、背景がナチュラルで明るい色味の柔らかな雰囲気なことが多いです。

 

また、シーズンテーマになっている言葉にはスワヒリ語や日本語など、後にもご紹介するヤンヤン自身に大きな影響をあたえている国のことばが使われていたりします。

 

シーズン一覧

#1 YUKKURI”(2011)

#2 SATTA AMASSAGANA”(2012)

#3 IN AWE”(2013)

#4 UHURU SASA”(2014)

#5 INITE”(2015)

#6 NO MAN IS AN ISLAND”(2016)

#7 AWARE”(2017)

#8 MU”(2018)

 

PROJECT(プロジェクト)

特定の工芸品やインスピレーションに基づいて作られるヤンヤンの実験的な発表。

中でも日本に伝統として残る技法にフォーカスをあてたものが目立ちます。

発表自体はコレクションと同じインスタレーション形式をとっていますが、春夏にくらべ比較的暗い背景での発表が多い印象。

工芸品にリスペクトを忘れず、ヤンヤンらしいルーズさやカラーリングと見事な融合を見せています。

#1 PROCEED”(2013年秋冬)

アフリカンパッチワークにフォーカスをあてたシーズン。

テクニックもそうですが目を惹くはその絶妙なカラーリング。

ビビットな赤、クリームがかったイエロー、明度を落としたネイビーがうまく調和しています。

 

#2 REDEEM”(2014年秋冬)

裂き織りを再解釈したシーズン。

もとある生地を裂き、それを経糸(たていと)としてもう一度緯糸(よこいと)を打ち込んでいく日本の伝統的技法ですが、迫力がある反面そのクラフト感からアクが強くなってしまうのも事実。

ですが生地をほそく裂いて織りあげた裂き織り生地をポイントで効果的に使うことでヤンヤンの服に見事に取り入れています。

 

#3 WADADA”(2015年秋冬)

アムハラ語で「愛」をあらわすシーズン名。

アムハラ語とはエチオピアの公用語ですが、ストロー(ワラ)?を緯糸に用いて織られた特徴的な生地が多くのアイテムに使用されたシーズンになっています。

こちらも手織りの生地なので途中で緯糸をかえることが可能。

上の1枚目の写真のようにノーシームで真っ黒の生地につなげることができます。

おそらく2枚目で着用している羽織りも切り替えになっている箇所は一枚生地なのでしょうね。

 

#4 EACH ONE TEACH ONE”(2016年秋冬)

 

日本の襤褸(ぼろ)にフォーカスをあてたシーズン。

色のトーンもうまく落としていてど迫力の襤褸を上手にファッションに落とし込んでいますね。

 

#5 ARISE”(2017年秋冬)

袈裟に触発されたパターン調査をおこなったシーズン。

素材だけでなくパターン研究にもとりくみ、自身のブランドへ取り入れています。

 

#6 ONE STONE”(2018年秋冬)

アイヌの着物に触発されたパターンリサーチ。

2シーズン続けてのパターン研究です。

 

アイヌの伝統的な和装はその大胆な文様が特徴ですが、ヤンヤンはそのパターンに注目しファッションに落とし込みました。

本物のアイヌ服が見たい人はゴールデンカムイを読んでみよう。

 

卓越したパターンメイキング

一枚パターンの巧さ

先ほども着物袖などパターンメイキングの巧さに触れましたがここではもう少し深くまで掘り下げてみましょう。

ヤンヤンの服づくりで特筆すべきは一枚パターンのうまさ。

 

布を衣服にする過程で避けては通れないのがシーム(縫い目)の存在ですが、ヤンヤンはパーツ数を限りなく少なくすることによってシームレスな服に仕上げています。

 

絶対にシームがない方がいい、と言いたい訳ではないのですが糸でパーツ同士をつなげるのでその部分だけ生地が分厚くなったり硬くなってしまったりと、着心地を考えたときに少し不都合があったりします。

 

プラモデルとかでもパーツとパーツの継ぎ目って気になりますもんね。

 

 

…これはちょっと違うか。

 

 

パーツ数を減らしつつ着心地も気を配ってシンプルに仕上げるというのはなかなか簡単ではありません。

ですが逆を返せば、そんな服が作れたらそれを着た人にものすごい衝撃を与えることができるわけです。

 

いくつかアイテムの例をあげてみていきましょう。

 

カットソー

袖は着物袖で肩シームなしのパターン一枚仕立てになっています。

すごーくざっくり言うと下の写真みたいに生地の左右を袖口だけ残して縫い合わせて頭を出す部分に切れこみを入れた感じですね。

さっきも書きましたが肩シームがないパターンで取ることによってオーバーサイズで着ても生地がちゃんと落ちてくれて綺麗なドレープが出るというわけです。

 

シャツ

肩から袖にかけてはカットソーと同じように着物袖でつながっていて、前身頃と後ろ身頃もサイドシームなしでつながっています。

背面はT字のパターンで収束しており、前から見たときにシームがない仕上がりになっています。

 

パンツ

アウトシームはなくインサイドシームのみ。

それどころかお尻側のセンターシームもない。

さらに着心地にこだわって股下に後ろ側の生地から前面に延ばしてきた三角の生地。

この生地があることで股を180°開いても股の中心にシームがないので壊れにくくなっています。

形は違いますがグラミチとかでもあるガゼットクロッチ的なディテールですね。

↑こういうやつね。

 

ミニマル、シンプルなシルエット。

シンプルな服というだけなら他のブランドでも着たことがあるはずなのに、どこか違う感じ。

シームがないミニマルさと、テキスタイルがなめらかに肌に沿う感覚。

 

シルエットのルーズ感も柔らかく、ふわっと落ちる生地感。

それでいて着心地もいい。

気取っていないのにキマる服。

 

ヤンヤンの服は試着してドハマりする人が多いのは着たときにこれらが体感できるからなのかもしれません。

 

 

他文化との融合

アフリカからのインスピレーション

先ほどもご紹介したように、ヤンヤンとアフリカは密接な関わりをもっています。

シーズン名や色づかいなど、ブランドのいろいろな面でそれを垣間見ることができますが2018年春夏コレクションではその要素がより色濃く反映されています。

 

こちら。アフリカ藍のアイテムです。

デザイナー本人がアフリカまで足を運び、自身で藍染めを施したというエピソードもあります。

アフリカは日本にならんで有名な藍染の生産地ですが、ベルギーからその染色技法をもとめてはるばる現地を訪ね、自分の手で加工を施すものづくりへの真摯な姿勢は着る人にも服をとおして伝わっていることでしょう。

 

日本からのインスピレーション

ここまでもなんども出てきたジャポニズムな要素。

これを抜きにはヤンヤンは語れません。

 

パターンや素材、スタイリングももちろんですが、なによりその「和」のマインドを大切にしているというヤンヤンのものづくりはわたしたち日本人にはより特別にうつるのかもしれません。

 

COLLECTIONのファーストシーズンのテーマが"YUKKURI"と日本語だったりするのも、それを象徴していますね。

ジャポニズムへのリスペクトの姿勢はわれわれ日本人も見習うところがありそうです。

 

 

 

O PROJECT(オープロジェクト)

JAN JAN VAN ESSCHEの別ライン「O PROJECT(オープロジェクト)」も、ヤンヤンのものづくりが色濃く反映されています。

O PROJECTはニット・ジャージー製品を中心としたラインで、スタートから現在で6シーズンになります。

 

ファーストシーズンは起毛を外側に使用したスウェットなど、素材感を全面に活かしたアイテムをリリースしていました。

最初のほうはジャージーが得意なドイツの下着屋で生産したりもしていたようですね。

 

JAN JAN VAN ESSCHEよりも低価格ではありますが、明確にディフュージョンラインとして位置づけられているわけではなく、あくまでニット・ジャージー中心のラインとされています。

ちなみに今シーズンからは日本で生産されているようです。

 

まとめ

サイズや文化のちがい、性差の線引きをなくしたボーダレスなものづくりを見てきましたが、いかがでしたか?

流行りのオーバーサイズにはない、細やかな計算に裏打ちされた服たち。

 

その片鱗にでも触れてもらえていたら嬉しいです。

 

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