『Carol Christian Poell(キャロルクリスチャンポエル)』 の”第二の肌”を目指した服づくり

2016.09.30

2020/05/05追記・編集

今年20周年を迎えるブランド『Carol Christian Poell(キャロルクリスチャンポエル)』。

商品は限られた店舗、限られた点数のみでの販売。

流行りモノ・大衆受けとは真逆に位置する、一般的に”アルチザン(職人)ブランド”と呼ばれるもののひとつです。

クリスチャンポエルの服作りは、他のブランドに比べて一風変わっています。

一般的にブランドのものづくりは、毎シーズン違ったテーマに基づいて行われれます。そのため個々のブランドらしさはあれど、そのシーズンごとによって与える印象は異なります。
対して、クリスチャンポエルのものづくりは20年前のブランド設立時からずっと一つのゴールに向かって行われています。

ただ一つのゴールに向かい、20年経った今でもひたすら素材とディテール(ポエルの言葉では”フォルム”と”マテリアル”)を改良し続けています。

そのゴールとはなんなのか。

それは、服を”第二の肌”の次元まで昇華させることです。

今回はその”第二の肌”という考え方と、それを目指す彼なりの発想とデザインについてご紹介します。

”第二の肌”を目指して

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人間における”肌”とはどのようなものでしょうか。

要素をあげるとするならば
違和感がない・・・生きていて肌に違和感を感じることはありません。
壊れない・・・自然に治癒し、何十年と身体を守ります。
飽きない・・・生まれてからそれが当たり前ですから飽きるという感覚がありませんし、そもそも他のものでは代用できません。

なんとも当たり前なことを書いていますが、この”当たり前”がなかなかすごいことなのです。

肌以外で肌の役割ができるものを生み出すとなると、ちょっとやそっと考えただけではたどり着けない領域であることは容易に想像できます。

これらの要素を満たす、肌の役割を担える服づくりの追求。
これがクリスチャンポエルの目指しているゴールです。

彼はこの肌の持つ要素を
・違和感がない=着心地の良さ
・壊れない=耐久性
・飽きない=普遍的なデザイン
と捉え、ただこれだけのことを昇華させることに努めています。

『Carol Christian Poell(キャロルクリスチャンポエル)』独自のデザインとその意図

ここからは”第二の肌”を目指すクリスチャンポエル独自のデザインと、そのデザインがなされる意図についてご紹介します。

1. 着心地の追及

スパイラル(螺旋)

主にアウターの袖部分やパンツ、ブーツなど人間の身体の棒状になっている部位に用いられます。

これにより、動きを妨げず、それでいて身体に纏わりつくような着心地と細身なシルエットを実現します。

螺旋状に入ったステッチは生地が伸びきってしまうことを防ぎ、何年経っても同じ着心地を保つことに役立っています。

ブーツにおいてはパターンだけでなくジップもスパイラルになっており、着脱もスムーズにできる仕様になっています。

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2. 耐久性の追及

クリスチャンポエルのためだけの生地

クリスチャンポエルの服作りは機屋(はたや)に生地を織ってもらうところからスタートします。

料理に例えるなら、畑で野菜作りから始めているようなものです。

ちなみに、このパンツはこの生地、あのジャケットはあの生地といった具合にアイテムごとに織る生地を変えるというこだわりっぷり。

同じジャガイモを使う料理だけどカレー用は煮くずれしにくいメークイン、コロッケはほくほく感の強い男爵いも、と言った具合でしょうか。
これだけ言えば普通のことですが、そのジャガイモも自分で作るところからはじめるとなればその異常さ加減が伝わることでしょう。

この非常に非効率な方法により、一つのアイテムを完成するのに2年以上平気でかかってしまうそうですが、その分完成した時の仕上がりはまさに至高の一着。

見た目だけではなく耐久性も追求した生地は何十年もの着用に耐えます。そして、着ていくごとに柔らかくなることで自分の身体に合わせてシワができ、着心地がさらに良くなっていきます。

テーピング処理

長く着ていると、身体に触れる部分の生地や糸は摩擦によってどんどん擦れていってしまうもの。

クリスチャンポエルの場合、そのスレを防ぐためシーム箇所にテーピング処理を施し、それにより生地と糸を守っています。

テーピングに使用しているのは、本来はアウトドアの化繊素材(ナイロンなど)のシーラント(隙間を埋める)用のテープ。

ちなみにこのテーピングは生地と糸を守るだけでなく、生地の隙間から雨風が入るのを防ぐことにも一役買っています。

過去にはテープのみで生地と生地をつなぎ合わせているシリーズもありましたが、今はオーバーロックステッチとのダブル使いで用いられることが多いようです。

耐久性と防寒性を併せ持つ素晴らしいディテールです。

ゴムの素材

ブルゾンやパンツ裾のリブなどにも用いられるゴムですが、クリスチャンポエルはもちろんこのゴムにもこだわります。

着脱のしやすさと身体にフィットするホールド感、それでいて使い込んでも壊れない耐久性を追求した結果、ポエルが行き着いた答えが「医療用バンド」

医療の現場でリハビリ用のサポーターなどにも使われる、硬く伸びにくいものを使用しています。

患部を固定しつつも動きを妨げない絶妙なホールド感がリブに最も適していると判断したのでしょう。

クリスチャンポエルのブーツではその医療用ゴムバンドをストラップに使用したブーツがあり、着脱の容易さとホールド感の両立を見事に実現しています。

パーツの省略

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こちらのパンツはベルトループをつけないことで表側の縫製箇所を少なくしています。

これも服を壊れにくくする気づかいの一つ。

ウエスト調節は内側に付いているゴムベルトで行います。

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こちらのゴムベルトも先ほどご紹介した伸びにくくホールド感のある医療用バンドを使用。

現在当店で販売中のパンツも2005年製のものですが、ゴムの伸縮性は十分残っておりまだまだベルトとしてしっかり機能します。

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CAROL CHRISTIAN POELLキャロルクリスチャンポエル[04-05AWフリースウールオーバーロックパンツ/44]USED美品

ステッチ

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クリスチャンポエルは服の耐久性を上げるためオーバーロックステッチという縫い方をよく用います。

上記写真のパンツは、サイドシームを土嚢の袋などを縫うような特殊な工業用ミシンで、極太の糸を使用してオーバーロックしています。

負担のかかりやすいパンツの外側をしっかり補強しておくことで服の耐久性はより一層増します。

このオーバーロックを行うにあたって、普通の生地では太いミシン針が原因で生地が傷つき、普通のミシンでは耐久性の高い太糸のオーバーロックに対応しきれません。

パンツ作りのために生地から依頼するポエルだからこそできる芸当です。

ダメージが入りやすいところを守る

生地自体の耐久性はもちろん大事ですが、人間が生活する上でどうしても集中して負荷がかかってしまうポイントを守ることも”第二の肌”を目指す上では必要不可欠な要素です。

ポケット

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ポケットに手を突っ込むという行為は意外とポケットの端に負荷をかけています。
1年や2年くらいでは大丈夫ですが、何十年も履いていると次第にヤブレやホツレが起こってしまいます。

それを防ぐため、ポケットに少量の切れ込みを入れ、ポケットの始まりを少し内側にしています。

こうすることで生地にかかる負荷を減らし、また少しポケット口が広くなったおかげでスムーズに手を入れること可能になります。

ボタンフライ

ボタンフライを何度も開閉することで股下の生地のつなぎ目に負荷がかかります。

デニムの場合は股下にリベットを打ったり、カンヌキと呼ばれる厚いステッチで生地を補強しますが、クリスチャンポエルの場合はさらにテクニカルな方法で補強します。

その方法とは「股下ボタンフライのパターンを一枚で作ってしまう」こと。

つながった一枚の生地なので完全に開いた状態にしてもそもそも繋ぎ目がないので負荷による損傷を防ぐことが可能です。

ちなみに、ボタンホールも微妙に斜め向きに作られており、開閉がスムーズかつボタンの縫い糸にダメージを与えないという効果があります。

3. 普遍的なデザイン

ここまでご紹介したディテールの数々をご覧になられたことで十二分に伝わっているかと思いますが、クリスチャンポエルのものづくりにおいて”意味のないデザイン”は一切存在しません。

つまり、彼の制作物には必要なステッチ、必要なパーツ、必要なパターンしか存在しないのです。

”足し算”のデザインではなく”引き算”のデザイン

そのため彼の服は常にシンプルで時代や国籍を問わない普遍的なものばかりです。

究極のノームコア(普通)を実現したからこそ、何十年も着たくなる”第二の肌”になりうる服が生み出せるのでしょう。

Writer:Yusuke Omura

 

 

※DollarはARCHIVE OF FASHIONというサイト名に変更しました。

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