今回はANN DEMEULEMEESTERについて。
確立された世界観からメンズレディースともに根強いファンを持つブランドですが、黒を基調としたゴシックでモードなブランドという印象が強い、という方も多いのではないでしょうか?
今日はそんなANN DEMEULEMEESTERをさまざまな視点から紐解いていきましょう。
音楽からみるANN DEMEULEMEESTER(アンドゥムルメステール)
Patti Smith(パティスミス)
パンクの女王、パティスミス。
彼女は古くからアンドゥムルメステールと親交があり、アンとはお互いに影響を与え合っている関係のようですね。
2人の出逢いはアンがその昔、パティスミスの最初のアルバム「Horses」を買ったところから。
「Horses」のジャケットの格好がまさにその後のANN DEMEULEMEESTERのスタイルを彷彿とさせるような出で立ちなのも面白いポイント。
ここからインスピレーションをところもあったのかもしれませんね。
それから2人は実際に出逢うことになり、互いに影響を与え合う間柄となっていきます。
その関係性はANN DEMEULEMEESTERのコレクションでも垣間見ることができます。
2000年春夏コレクションでは、パティスミスの詩がチュールにプリントされたアイテムが多数発表されました。
その他のルックも、黒のジャケットに白いシャツ、黒のパンツとアンの王道といえば王道なのですが「Horses」のジャケットを想起させるスタイリングだったりと見どころたっぷりのコレクションでした。
そのほか2006年秋冬コレクションでは、パティスミスの名言がプリントされたアイテムも発表されています。
"What remains is future(未来は残っている)"
ニューヨークの伝説のクラブCBGBでの最後のライブで残したといわれている言葉ですが、ルックのカットソーでは胸元に大きくメッセージを配しPatti Smithにリスペクトをあらわしています。
ちなみにこのデザインは2018年春夏シーズンからはじまった「RE-EDITION」のプロジェクトのひとつとしてリバイバルされました。
フォントも色々あるようですね。
この2006年秋冬のコレクション、実はパティスミス自身もモデルとしてランウェイを歩いています。
また、DOVER STREET MARKETにてANN DEMEULEMEESTERの本が発売された際にはライブイベントをおこなったりと、パティとアンはただならぬ間柄であることがわかります。
PJ Harvey(PJハーヴェイ)
彼女もまた、ANN DEMEULEMEESTERと深い関係であるミュージシャン。
PJハーヴェイのアルバム「Let England Shake」ではANN DEMEULEMEESTERを着用し、羽根のヘッドピースをつけています。
アンの服はミリタリーやパンク・ゴスの要素が含まれており、その表面的なイメージからそういったジャンルに分類されることもあります。
が、鳥瞰的に見てみるとそれらは具体的に表現した結果そう見えているだけであるということがわかります。
これはPJハーヴェイの音楽にも同じことがいえます。
ミュージシャンとしての活動の中でさまざまなジャンルや表現方法に挑戦している姿はアンの服づくりと重なるところがあります。
実際、PJハーヴェイは自らの世界観の表現のためにアンの服やヘッドピースを着用し、アンはPJハーヴェイの曲をショーの音楽に採用しています。
彼女たちはお互いが自分が表現したい世界観を別の手段(服と音楽)で作り出している者同士なのでしょうね。
デザインからみるANN DEMEULESTEER(アンドゥムルメステール)
激しさと柔らかさの混在したデザイン
アンのデザインは一見激しく力強いものが多いように捉えられるかもしれません。
が、よくよく紐解いていってみるとその中には柔らかさや優しさが内在していることがわかります。
ここではいくつか例をあげながらデザインを紐解いていきましょう。
こちらミリタリーモチーフのデザインですが、そのパーツたちが解体されています。
軍事的な(力強い)ものの崩壊、といったイメージでしょうか。
崩し具合もファッションとしてのドレープ感というかレイヤード感というか、テーマ・コンセプトだけに支配されないファッションとしての完成度にも注目。
そこもどちらかに偏りすぎない、良いバランスを持っているブランドですね。
アートからみるANN DEMEULESTEER(アンドゥムルメステール)
ANN DEMEULEMEESTERではしばしばアートからテーマの着想を得たものが見受けられます。
ここではアートの観点からブランドを観ていきましょう。
例としてダダイズムをテーマにした2008年春夏コレクションをご紹介します。
ダダイズム
ダダイズムとは、第一次世界大戦中の1916年、スイス・チューリッヒで起こった芸術思想のことです。
フランスの詩人・トリスタン・ツァラが宣言した「ダダ宣言」は多くの芸術家の賛同を得て、世界中に同時多発的に飛び火し影響を与えました
そのダダイズムの色が反映された2008年春夏コレクションのルックがこちら。
直接的な「DADA」というメッセージ。
赤やオレンジといったビビットカラーが散りばめられたルックはこのシーズンの象徴的なスタイルです。
またこのシーズンのスーツにはキュビズムの創始者のひとりでもあるジョルジュブラック(Georges Braque)の作品をオマージュした柄が使用されています。
ダダイズムの思想をそのままコレクションで伝えたかったこと、と捉えるとファッションの固定概念を壊して新しいものを生み出していく、という意志のあらわれのようにも感じますが逆を言えば既存のものをしっかりと理解していなければそれを壊すこともできないわけで、そこにはある種のリスペクトも含まれているのではないかと思います。
芸術におけるダダイズムの意味合いほど、過去のものに対しての破壊的な見方はないのではないかな、と思ったりもします。
色からみるANN DEMEULEMEESTER(アンドゥムルメステール)
ANN DEMEULEMEESTERのカラーアイデンティティは白と黒、なのですが各シーズンで白黒に加えてさまざまな色を加えることでそのシーズンのテーマをより明確に表現することができています。
ここでは一部ですがコレクション画像を参考にシーズンのカラーをご紹介します。
興味持った方はVOGUEなどから全ルック見てみてくださいね。面白いよ!
では一つめ。
2011年秋冬コレクションではディープレッドとマスタードイエローが目立ったシーズンでした。
チャコールのジャケットなどでも裏地にマスタードイエローが使われていたりとシーズンを象徴するカラーとして明確に提示されていました。
2012年春夏コレクションでは砂漠をイメージしたカラーリング、サンドカラーが用いられました。
ランウェイにも砂が敷き詰められ、背景にもサンドカラーが使われており服の世界観にマッチした素晴らしい空間でした。
クローズアップの写真だと地面が砂なのがよくわかりますね。
2012年秋冬コレクションでは赤と青、それも光沢のあるラグジュアリーな色が使われていました。
2013年春夏コレクションはオレンジとパープル。
2012AWに続きゴージャスな光沢のある色選びですね。
このシーズン、当時大好きだった覚えがあります。
ベルベットっぽい素材のオレンジの花柄パンツがすごくかわいかったんです。
これですね。
と、ここまで白黒に映える鮮やかなカラーリングをご紹介してきましたが、
対照的に無彩色にこだわったコレクションもあります。
2011年春夏コレクションは真っ白のルック20体、真っ黒のルック20体しかありません。
ワンポイントの色すらどこにもありません。
まさにANN DEMEULEMEESTERのアイデンティティを象徴するようなコレクションですね。
同じ白でも素材づかいでライトで光ったり、マットな質感だったりと表情が見えるのが面白いですね。
これは色という要素を排除してくれているからこそ些細な色味の違いに気づくことができるのだと思います。
モチーフからみるANN DEMEULEMEESTER(アンドゥムルメステール)
ANN DEMEULEMEESTERのデザインには鳥のモチーフがたびたび登場します。
特に多く登場するのは羽のモチーフ。
羽はアンの人生にとってとても大切なもののようです。
ここでは羽を使ったコレクションの画像を見ながらその羽がもたらすもの、使っている意味を探ってみましょう。
2001年春夏コレクション
2009年秋冬コレクション
2011年秋冬コレクション
2011年秋冬コレクション
このように多くのシーズンに使われている羽のデザインですが、彼女は羽について
「羽は日常の中にある完璧な造形物。また、ファッションにおいてはハードな雰囲気を和らげてくれるもの」
と捉えています。
使う羽の種類はアヒルやハト、雄鶏とさまざまなようですがそのコレクションルックに合うように羽を使い分け、ヘッドピースに使ったり一部分に使用したりとしているようです。
羽以外にも爪などのデザインも使われていたりします。
また、アンは鳥への愛とリスペクトとして生きた鳥を殺して材料として使うことはしていませんでした。
すべて抜け落ちたものだけを使用していたようです。
彼女が鳥を単なるデザインソースとして捉えていないことがよくわかりますね。
過去作からの復刻
2014年秋冬コレクションを最後にアン本人はデザイナーを退きましたが彼女が作ってきたANN DEMEULEMEESTERの世界観は今もしっかりと受け継がれています。
現デザイナーセバスチャンムニエ率いる新生ANN DEMEULEMEESTERでは過去作のモディファイ(手を加えること)をおこない、再度発表する提案方法をおこなっています。
2004年秋冬コレクションではジョッパーズパンツやジョッパーズブーツ、ホースライディングコートやレザーグローブなど乗馬にまつわるディテールを中心に素材使いもレザーやファー、ボアと動物を連想させるものを多く使用していました。
アン本人の退任3年後の2017年秋冬メンズコレクションにてホースライディングコートを再リリース。
アンのデザインのカラーをしっかり残しつつ、再解釈された素晴らしいピースでした。
ここからは最近のシーズンごとに、過去のデザインがどうモディファイされているのかをコレクション画像を見ながら追っていきましょう。
2017年春夏コレクション
▲2001年春夏コレクション
▲2001年春夏コレクション
▲2017年春夏コレクション
2018年春夏コレクション
▲2013年春夏コレクション
▲2018年春夏コレクション
▲2012年春夏コレクション
▲2018年春夏コレクション
▲2001年春夏コレクション
▲2018年春夏コレクション
▲2011年春夏コレクション
▲2018年春夏コレクション
2018年秋冬コレクション
▲2011年秋冬コレクション
▲2018年秋冬コレクション
▲1997年春夏コレクション
▲1997年春夏コレクション
▲2018年秋冬コレクション
▲2000年秋冬コレクション
▲2018年秋冬コレクション
このリバイバルを指揮した現デザイナーのセバスチャンムニエはWWDのインタビューでANN DEMEULEMEESTERでのクリエイションについて話しています。
−私はアンのピュアなDNAを守るため、流行のストリート系ファッションは一切見ないようにしています。今「アン ドゥムルメステール」は流行の中心にはいないかもしれません。でも、ファッションは待つことも重要です。1〜2年前と現在を比べても流行は大きく異なりますし、私たちもまた中心に戻れると信じています。−
出典 : WWD
彼は元々マルタンマルジェラのデザインチームにいたこともありまして、DNAを守っていくことの重要性をよく理解しているのかもしれませんね。
デザイナー交代によってブランドのカラーが大きく変わってしまうこともある中、アン本人が退任したのちもそのDNAが色濃く残るANN DEMEULEMEESTERというブランドの偉大さを強く感じます。
ANN DEMEULEMEESTER(アンドゥムルメステール)にゆかりあるブランド
WERKSTATT : MUNCHEN(ワークスタットミュンヘン)
もともとANN DEMEULEMEESTERのシルバーアイテムを作っていたブランド。
細かい彫銀に定評があります。
特徴のひとつがパンクの要素を盛り込んだデザイン。
ドクロなどキャッチーなアイコンとしてのパンク要素もあればエッジィな彫銀での繊細かつ力強いデザインでそれを表現することも。
複雑に見えるアイテムもよくよく見ればつけ足しているというよりはどこか削ぎ落としたような印象。
モノトーンが多いANN DEMEULEMEESTERのスタイリングを鋭く光るアクセサリーで彩ります。
Elvis Pompilio(エルビスポンピリオ)
アンドゥムルメステールの帽子を担当していた人物。
造形美にこだわり、アンの世界観をハットに忠実に落とし込んでいました。
シャネルのヘッドピースやらエリザベス女王のヘッドピースやらを作っていた人物でもあります。
ANN DEMEULEMEESTERから発売されていたポンピリオ作の帽子はものすっごく高価ですがそれ以上に素晴らしい完成度です。
Kate MccGwire(ケイト マクグワイア)
2016年春夏コレクションはケイトマクグワイアのアート作品が服にあしらわれました。
イソギンチャクのような無数の触手が角度と密度を変えながら配することで規則性と流れを生み出しています。
見る角度によってレザーが見えたり隠れたりと奥ゆきのある表情をたのしむことができます。
LINDA FARROW(リンダファロー)
ロンドン発のアイウェアブランド。
エミリオ・プッチやバレンシアガのサングラスも手がけていたリンダファローとのコラボレーションはアンらしい黒いサングラスが多く見られました。
ANN DEMEULEMEESTER、あります
ANN DEMEULEMEESTERを身近に感じてくれたあなた。
DOLLAR context(表参道)にてアンのアイテムや本、小物など置いておりますのでぜひ喋りにきてください。
アンが大好きなスタッフがお待ちしています。
※Dollarは "VISION OF FASHION" というサイト名に変更しました。
店舗買取は東京 CONTEXT TOKYO、京都 乙景、岩手 kune にて承っております。宅配買取もぜひご相談ください。
買取のご相談は コチラ から
instagramアカウント @v.o.f.archive